2018年04月25日(水)
- コラム
- 離婚事件
離婚とお金
(1)婚姻費用
婚姻費用とは、民法760条で規定されている夫婦の同居協力扶助義務の内容の一つとして、夫婦のうち収入の多い方が収入の少ない方に対し支払うべき扶養料のことです。
裁判実務では、原則として“算定表”を用いています。“算定表”とは、婚姻費用について、権利者(=請求する側)と義務者(=請求される側)の収入に基づいて、迅速に金額を割り出すことができるように作られたものです。この表において権利者と義務者の収入が交わったところに記載してある金額が婚姻費用として請求できる金額です。
配偶者が勝手に出ていって生活費を入れてくれないといった場合には、婚姻費用を請求できるかもしれません。婚姻費用は、請求した時点から発生するとされています。請求していない時点では、そのお金がなくても生活できていたので、婚姻費用は必要ないという考え方が背景にはあります。そのため、請求権がある場合には、一早く請求した方がよいです。ご自分で請求しても埒が明かないということでご相談を受け、弁護士から内容証明を送った結果、相手が婚姻費用を支払うようになったというケースも多く見て参りました。相手が支払ってくれない場合には、早めに弁護士に相談することで、きちんと婚姻費用が確保できるという結果につながります。生活費でお困りの方は、まず一度ご相談にいらしていただければと存じます。
(2)養育費
養育費は、主として民法766条1項で規定されている「子の監護に要する費用」に根拠があり、子を監護している方の親が(多くは親権者です)、監護していない方の親に対して請求できる子どもの扶養料です。
裁判実務においては、原則として、現在成人年齢とされている20歳までの間、金額は養育費算定表相当額を毎月支払うこととされています。養育費算定表というのは、婚姻費用の算定表と同時期に併せて作成されたもので、こちらも権利者の収入と義務者の収入に基づいて、迅速に金額を割り出すことができるように作られたものです。この表において権利者と義務者の収入が交わったところに記載してある金額が養育費として請求できる金額です。ただし、通常、特別出費条項というものを入れ、学校の入学や大病をしたときの医療費等については、別途誠実に協議するといった形で取り決めることが多いです。
また、ここでいう「子」については、成人年齢が一つの基準とされているものの、成人年齢に達しているか否かに関わらず、経済的に自立できていない子(=「未成熟子」といいます)を指していますので、そのような子に対しては、20歳に達しているか否かに関わらず、親は扶養義務を負います。たとえば、親が二人とも医学部卒で、小さい頃から大学に進学するのが夫婦の間で当然として子育てをしていたような環境にある場合、大学卒業まで養育費を支払うよう裁判所から命ぜられるケースもあります。また、算定表は、公立学費しか含まれていませんので、私立に通学することについて夫婦で合意がある場合は、算定表相当額に含まれている公立学費と実際にかかっている私立学費の差額についても請求できることもあります。
以上が実務ですが、当事者間で話がつけば、たとえば支払いの終期を子どもが18歳とするなどの取決めも可能です。ただし、養育費はそもそも子どもの請求権でもある上、民法766条1項ただし書きにおいて「子の利益を最も優先して考慮」するべきとされていますので、たとえ当事者間で18歳までとする旨の合意をしたとしても、子ども自身が請求権を行使した場合、その請求についてはたとえ当時者間で合意した内容と異なる請求内容であっても認められる可能性があります。
しかし、そもそもそのような子ども自身が請求するようなケースでは、子ども自身が困っているケースがほとんどでしょう。子どもにとって両親の離婚はそれだけでとても傷つくものですし、その後の人生にも大きな影響が生じる問題です。そのため、そもそもお子様が将来困った状態に置かれないよう、お子様の状態や気持ちにも配慮しながら離婚条件を決めていくことはとても重要なことです。弊事務所では、子どもの問題を多く扱っている経験を踏まえ、そういった点からのアドバイスもさせていただきます。
なお、養育費も扶養料ですので、婚姻費用と同じ考え方に基づき、原則として請求した時点から発生するとされています。また、一度取り決めた養育費であっても、取り決めた各期限から5年で時効にかかり、請求権が消滅してしまいます。
そのため、離婚時に何ら取決めをしなかったようなケースや、取決めをしたにも関わらず途中から払われなくなったようなケースにおいては、一早く請求することが重要です。弁護士から内容証明を送った結果、相手が婚姻費用を支払うようになったというケースが多々あることは、婚姻費用と同じです。
子どもにとっても、毎月自分の口座に離れて暮らしている親からお金が振り込まれるということは、自分が離れて暮らしている親にも見捨てられていないという実感を持つことにつながり、子ども自身の自己肯定感を育むことや両親の離婚による傷つきを少しでも減らすことにつながります。そのことは金額の多い少ないとは関係がありません。
お子様のためにもぜひきちんと請求することをお勧め致します。養育費でお悩みの方は、まず一度ご相談にいらしていただければと存じます。
★強制執行~公正証書作成の重要性~
婚姻費用や養育費については、支払われない場合には、義務者の給与・賞与を差し押さえることが可能です。通常、将来発生する債権は差押えをすることができません(=原則として来月の養育費の分まで差押えができない)が、婚姻費用や養育費の場合、一度不払いとなった時点で一度手続きをすれば、翌月以降の分も差押えが可能です。また、給与等の場合、通常の債権であれば4分の1までしか差押えができませんが、養育費の場合は2分の1まで差押えが可能です。
ただし、給与等を差し押さえるとなると義務者の職場に裁判所から通知がいくことになります。そうなると、義務者が会社を辞めさせられてしまうなどといった事態もありえます。
もちろん、権利は実現すべきですので、最終的には支払われないのであれば差押えを躊躇すべきではありませんが、給与等を差し押さえる可能性があることを弁護士から示唆することで、義務者が会社に裁判所から連絡がいくことを恐れ、自ら支払ってくるケースも多々あります。そのため、給与等の差押えは、婚姻費用や養育費を速やかに支払ってもらうための交渉材料として使える制度という側面も大きいでしょう。
なお、給与等の差押えをするためには、「債務名義」といわれるものが必要です。「債務名義」とはそれがあればすぐに強制的に権利を実現できるものを指します。婚姻費用や養育費について言えば、裁判所で行われる手続きにおいて決まった場合には、「債務名義」を取得することができます。ただし、裁判所を介さずに当事者間の合意だけで決める場合には、ただの合意書では「債務名義」にはなりません。そこで重要となるのが、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することです。強制執行認諾文言とは、簡単に言えば、支払わない場合には私は強制執行に服しますという文言です。この文言を入れて公証役場において公正証書を作成しておけば、それが「債務名義」になります。そのため、上記強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておけば、裁判所の手続きを介さずとも、支払われなくなった場合にいつでも強制執行ができる状態を作ることができます。
公正証書についても、専門家が作成した方が確実です。弊事務所では公正証書の作成のみのご相談も承っておりますので、お悩みの方は一度ご相談にいらしていただければと存じます。
(3)財産分与
財産分与について考える際、ポイントになるのは、その「対象」と「分け方」です。
財産分与は、一言でいうと、婚姻共同生活において築いた「夫婦共有財産」を(対象)、
“寄与度”に応じて分けるもので、民法768条に基づき、離婚時に、配偶者に対して請求できるものとされています。
そして、寄与度は原則として、今の裁判所実務では、片方が専業主婦(夫)であろうとも、
2分の1が原則(分け方)であり、この割合を動かすことは非常に難しいのが実情です。
しかし、たとえば、自分が持っている500万は父から相続したものだから、妻(夫)にはあげたくないといった場合もあるでしょう。そういった場合には、相続したことの証拠があれば、これは「特有財産」(=夫婦が協力して得た財産ではなく、相続や贈与等で片方が固有に得た財産)として、財産分与の対象財産から除くことができます。
いざ離婚するとなると、財産についても色々とご主張ご要望が出てくるかと存じます。少しでもご自分の財産を確保したいといったお気持ちもあるでしょう。そういったお考えが法的に通る主張なのかも含め、財産分与について疑問を持っていらっしゃる方は、まずは一度ご相談にいらしていただければと存じます。
財産分与は、離婚が成立したときから2年(民法768条2項ただし書き)で請求権が消滅してしまいます。ただし、逆に言えば、離婚が成立したときから2年以内であれば、離婚時に取り決めていなかった方でも、まだ間に合うかもしれません。そのような方も、あきらめずにまずは一度ご相談くださいませ。
(4)慰謝料
慰謝料は、不法行為に基づく損害賠償請求の条文である民法709条にその根拠があります。そのため、原則として、不法行為が成立するようなケースでなければ慰謝料は発生しません。離婚する際の慰謝料の発生原因として代表的なものは、不貞行為、DV、モラハラ等ですが、いずれも裁判で慰謝料を勝ち取るためには証拠が必要です。
金額については、100万~300万がボリュームゾーンですが、悪質な不貞行為やDVなどの場合には500万円超にのぼるケースもあります。結局はケースバイケースですが、何千万というのは、懲罰的損害賠償を認めていない日本ではまず難しい請求といえるでしょう。悪質なDVにより、半身不随にさせたといったケースなどでもない限り、そのような請求は認められない可能性が高いです。芸能人の離婚などで、よく慰謝料は何千万円などと報道されたりもしていますが、おそらくそのような報道における慰謝料には、財産分与も含まれているものと思われます。
ただし、ここまでの内容はあくまでも裁判になった場合の話です。交渉段階では、たとえば相手が早く離婚したいと考えているような場合、証拠が万全でなくとも、「解決金」という名目で実質的には慰謝料のようなお金を相手から請求することができるケースもございます。
どのような場合に慰謝料請求ができるのか、どのような証拠が揃っていれば交渉を有利に進めたり裁判になった場合に慰謝料を勝ち取ったりすることができるのか、そういった点で疑問をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談にいらしていただければと存じます。慰謝料については、特に弁護士によって見立てもまちまちですが、弊事務所の弁護士は、離婚・男女問題についての経験が豊富ですので、今現在の実務の状況を踏まえたアドバイスが可能です。
少しでもお悩みの方は、あきらめずにまずは一度ご相談くださいませ。
(5)年金分割
年金分割というと、年金の金額そのものの半分をもらえるのではないかというイメージを抱く方も多いかと存じますが、分割の対象となるのは、あくまでも、厚生年金記録です。
年金分割には二つの種類があります。
二つの種類とは、以下のとおり、「合意分割」と「3号分割」です。
合意分割とは、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を当事者間で合意した割合で分割することができる制度です。要件は、①婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること、②当事者双方の合意または裁判手続により按分割合を定めたことです。なお、合意がまとまらない場合は、当事者の一方の求めにより、裁判所が審判で按分割合を定めることができ、ほとんどのケースで2分の1となります。
また、3号分割とは、平成20年4月1日以後の婚姻期間中の3号被保険者期間における相手方の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ、当事者間で分割することができる制度です。こちらは合意の有無にかかわらず、請求すれば当然に分割されます。
なお、年金分割にも期間制限があり、離婚成立から2年で請求権が消滅するとされています(厚生年金保険法78条の)。ただし、逆に言えば、離婚が成立したときから2年以内であれば、離婚時に取り決めていなかった方でも、まだ間に合うかもしれません。そのような方も、あきらめずにまずは一度ご相談くださいませ。