2018年04月27日(金)
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ご挨拶と改めましてクロリスの理念
皆様、平素より大変お世話になっております。吉田美希でございます。
まず、今日まで自分が弁護士として活動を続けることができたのは、いくつもの奇跡が重なったからだと思っております。ご理解、ご支援を賜りました方々には、本当に心より感謝申し上げます。
このたび、ホームページをリニューアルさせていただきましたので、ご挨拶の記事をあげました。リニューアルの理由は、これまで以上にもっと同じ問題意識をもった方々とつながっていきたいと考えたからです。
古いページになじみのあった方々にとっては慣れるまでご不便おかけするかもしれませんが、温かく見守っていただけましたら幸いです。弊所の歴史を共有するためにも、これまでの内容はすべて残してあります。
今後は離婚・男女・毒親問題、その他家族関係やパートナーシップにまつわるいろいろなことについて積極的に情報発信していきたいと思います。
以下、長くなるのですが、弊所のこれまでを振り返るとともに今後に向けての抱負を書きました。ご興味のある方は長文ですがお付き合いいただけたらとても嬉しく思います。
★弊所が家族問題に特別に力を入れている理由★
弊所は皆さまご存知のとおり、離婚・男女・親子問題を中心とした家族問題に特別に力を入れている法律事務所でございます。取り扱い案件のうち9割は家族問題が占めています。家族問題といっても主訴は様々で、ご相談者の男女比は同程度、年代層も様々です。
私が家族問題に力を入れている理由は、他でもない私自身の背景に由来します。
私は、親と子どもの関係=支配と服従の関係であるということを子どもの前で断言する両親のもとで育ちました。あえて分類すれば過干渉型でしたが、心理的虐待のみならず、性的・身体的な虐待もありました。つらいとき、他方の親が私を守ることはありませんでした。気づかなかったり、見て見ぬふりをしたり、加勢したりして、結局いつも私が悪い子という結論になりました。これまでどうしても勇気を出し切れず、「幼少期から家族関係に悩んできた」というあいまいな言い回ししかしてきませんでしたが、同じ悩みを抱える方々との様々な関わりを経て、今後の活動に際しては、私が家族問題に力を入れている理由をまず明確にすることが必要だと考えるに至りました。
2011年、私は当時の自分が置かれた環境下でもっとも安全な方法により原家族(もともと生まれ育った家族のことです)から脱出できるチャンスとして、司法試験を受験しました。両親ともに私が「弁護士になること」に必死であったため、司法修習生になるという理由であれば一番穏便に家を出ることができたからです。法科大学院3年生の時、私は限界をきたし線維筋痛症を発症していましたが、それも詐病だと両親から疑われました。しかし、家から出たいという小さいころからの強い希望を叶えるため、必死に勉強し、とても幸運なことに合格することができました。合格したときは、合格した喜びよりも、家を出られるという安堵の気持ちが非常に大きかったことを今でも覚えています。合格は私にとって自由への切符でした。
司法修習開始と同時に家を出て、そこから私の生き直しが始まりました。
最初の3か月くらいは、まだ常に誰かから監視されているような気分で落ち着けなかったですが、それでも、一人で安心できる環境を得ることができ、だんだんと線維筋痛症のいくつかの症状がなくなっていったのを覚えています。
法律家になりたいという純粋な気持ちを持った仲間との司法修習時代は、周りがまぶしくて、本当に自分は弁護士になっていいのだろうかという迷いの連続でした。また、近くには同じような境遇の人がおらず、周囲になじむことが難しく、司法修習時代は楽しいとは思えませんでした。
そのような中、少年事件や離婚事件、子どもの権利委員会の先生方との出会いがあり、自分と同じように家庭で安心できない人がたくさんいることを生の体験として実感する機会に恵まれました。「これだ!」と思った私は、その時から離婚事件について勉強し始め、できる限り離婚事件の経験を積むことができることを条件に就職活動をしました。以来、家族問題について常に関わり、常に考え、自分なりに研鑽を積んでまいりました。
自分の背景にとらわれすぎたり、依頼者をかえって傷つけることなく、むしろ自分の体験をプラスに変えられるよう、色々な工夫もしてきました。大量の心理学の本で学ぶことはもちろん、添削問題でセルフカウンセリングをしたり、カウンセリングを受けたりして、自分の心のケアに努めました。依頼者へ少しでも法律以外の付加価値も提供できるように、自分が学んだことや自分の体験を生かして事件処理や社会活動にあたってきました。
★開業当初★
2015年5月、より自分の理念に沿った活動をしたいと思い、開業致しました。勤務弁護士だったころから、開業する際は、経験豊富な離婚男女問題のみならず、成人している方の親子問題(=毒親問題)についても取り扱うことを決めていました。しかし、3年前、それを明言するには、とても大きな勇気がいりました。一つは原家族に対する勇気、もう一つは同業者に対する勇気、そして、社会に対する勇気です。私が過去に受けた傷の「目に見える証拠」は何もありません。日本社会の風潮として、親には感謝すべきというものがあり、それは決して法律家の世界も例外ではありません。
それでも声をあげなければまた虐待と同じ構図に戻ってしまうと考えました。それに、自分のような背景がある人間だからこそ、やれることもあるのではないかと思いました。
とてもハードな道でしたが、勇気を出し、毒親問題を取り扱い始めました。
★毒親問題を取り扱うことに悩んだ日々★
残念ながら、「親を悪くいうとは何事だ」という反応や、「弁護士が増えたせいでこんな問題にまで口を挟む弁護士が出てきたのか」、といった心ない一言もたくさん受けてきました。同業者の方々の中でも、この問題は弁護士が扱う問題ではないとお考えになっている方々もたくさんおられるようでした。
この間、私が結婚したことにより、これから親になるのだから親を悪く言わない方がいいといったこともよく言われるようになりました。同じ悩みをもつ方々には予想できると思いますが、他にも本当にたくさん、言われてきました。ある程度は覚悟していたものの、やはり現実に言われるとショックなものです。私はそのような周囲の言葉にとても傷つき、悩みました。
特につらかったのは同業者の方々からの批判でした。この問題を取り扱うことで懲戒処分になったりしないか…業界で実質村八分にならないか…という不安で押しつぶされそうになったこともあります。
そんな中、私は好きな条文の一つを思い出しました。弁護士法1条です。弁護士法1条1項では、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と定めています。司法修習時代、自分がこのまま弁護士になってもいいのか悩んだとき、いつも眺めていた条文です。
私は一人暮らしを始めるまで、常にだれかにみられているような気持ちで、一挙手一投足気を使い、息をひそめるようにして生きていました。うれしい、たのしい、かなしい、さびしい、そんな気持ちを自由に出せる場は、ありませんでした。感じていいのかさえわかりませんでした。今、安全な環境で判断すれば、確かに私が生きてきた環境は人権侵害があったのです。ご相談を受けてきた様々なケースも似た状況です。100回以上考えましたが、毒親問題は人権問題であるという結論は変わりませんでした。
また、離婚・男女問題についても、家庭内あるいはごくプライベートな関係における人権にかかわる問題だということを再認識致しました。
★決意を新たに★
だから、これらの問題について取り組むことは、胸をはって弁護士の仕事であるという結論に至りました。私は今後、迷うことなく、離婚・男女・毒親問題(家族問題)について取り組み続けます。
それに何より、この3年間、振り返ってみると、非常に多くの方々のご理解やご支援があったからこそ、今があります。これまで勇気を出して私に相談してくれた方々、縁があってご依頼いただいた方々、私を紹介してくださった他機関や異業種の方々、家族問題を扱っていることに敬意をもっていつも応援してくれる先輩弁護士の方々、私の心のケアを応援してくれる方々、そして家庭を持つことを諦めかけていた私にチャンスをくれた夫と夫の家族、本当にたくさんのいろいろな方々の支えがありました。振り返ると、感謝しかありませんし、今これからも微力ながら頑張ろうと思えます。パワーが湧いてきます。本当に本当にありがとうございます。
私は今こそまた勇気を振り絞って前に進まなければならないと思っています。
★つながりをパワーに変えていきたい★
しかしながら、家族問題を継続的に扱い続けることはいろいろな意味でとてもエネルギーのいることです。離婚・男女問題については、法制度は整っているものの、社会の変化に伴い、裁判実務は見直しを迫られている状況だと感じています。少しでも可能性があればチャレンジする姿勢で頑張っていますが、残念な結果に終わることもあり、依頼者の方々と一緒にたくさん悔しい思いもしてきました。
毒親問題については、そもそもの法制度がありません。ストーカー規制法もDV防止法も児童虐待防止法も、私たち成人毒親育ちの支援には残念ながらなっていないのです。安全な場所に身を置くために引っ越しをしようにも、保証人が立てられず引っ越し先が見つからなかったり、引っ越しをしても住民票の閲覧制限ができずに親に追われたり、勤務先がよかれと思って連絡先を教えてしまったり。たくさんの相談にのるなかで、そして自分自身も一人の人間として生活をしていく中で、自由を勝ち取るにはいかにエネルギーがいるかということをしばしば実感させられます。まずは、今ある法制度の中で、可能な限り、安全な環境でそれぞれの生き直しができるよう一緒に闘っていきたいと思います。そして、いつかは法制度も…と思ってはいます。
弁護士は全然特別でもないし、万能でもありません。しかも、新しい考え方ややり方は批判をたくさん受けますし、一人ひとりの声は簡単にかき消されてしまいます。裁判の場でも同じです。そのため、私ひとりでは、このまま家族問題をエネルギッシュに扱い続けることは難しいと感じています。
でも、依頼者の方々と二人三脚であれば、ご理解ご賛同いただける方々と一緒に動けば、きっと新しい実務を開拓していける、そんな気がしています。人間の自由を勝ち取りたいというエネルギーは実はとてもパワフルだからです。
応援してくださる皆様とのコミュニケーションを通じて、今まで以上にパワーに変えていきたい、今はそのように思っています。
これまでもこれからも、どうぞよろしくお願い致します。
吉田 美希